「長期修繕計画ってなに?」
「どうやって作るの?」
円滑な大規模修繕工事を支える長期修繕計画。非常に重要なものであるにも関わらず、計画方法はおろか、オーナーがその存在を知らない場合もあります。
内容も煩雑であり、知識ゼロから作り上げるのは困難を極めます。修繕直前になって慌てないためにも、本記事でポイントを押さえ、ご自身の長期修繕計画をチェックしてみましょう。
目次
大規模修繕を支える長期修繕計画
長期修繕計画は大規模修繕をスムーズに行うための計画です。10年〜30年の期間を対象とし、各工事の時期や費用について、管理組合が作成します。
まずは、「なぜ長期修繕計画が必要なのか」目的を明確にしておきましょう。
工事の内容や費用を把握するため
長期修繕計画を作成することで、修繕工事の見通しをもったり、円滑に進めたりすることができます。
コンクリート作りで頑丈に見えるマンションも、日々劣化していきます。1番わかりやすいのは外壁部分。
塗装が剥がれると、日光などによってひび割れを起こします。ひび割れた部分から雨水が侵入し、内部で鉄部の腐食やコンクリートの爆裂など、構造部に深刻な影響を及ぼす場合もあるのです。見た目も悪くなり建物の資産価値も下がってしまいます。
こうしたことを防ぐために、長期修繕計画で塗装や防水の耐用年数などを把握し、適切なタイミングで修繕を行う必要があるのです。
また、大規模修繕を行う上で重要なのが資金繰りです。大規模修繕はマンションによっては数千万円かかります。大規模修繕は12年〜18年に一度行いますが、その間に小規模な修繕をすることもあるでしょう。
予算を立て、適切な積立金額を設定しなければ、いざという時に修繕できなくなってしまいます。
長期修繕計画はいわば大規模修繕工事のロードマップ。見通しを立てることで、スムーズな大規模修繕工事を実現しやすくなるのです。
居住者に修繕積立金額の根拠を説明するため
2つ目の目的は、居住者に修繕積立金額の根拠を説明できるようにするためです。居住者最大の関心ごとは
「修繕積立金」
住み続ける限り毎月10,000円前後も徴収されるのですから、何に使われるのか気になる方も大勢いらっしゃいます。
そんな方に、「いくら貯めていくら使う予定なのか」を明確に説明するためにも長期修繕計画が必要なのです。
長期修繕計画では修繕部位・修繕箇所の数量や単価・おおよその修繕費用を洗い出します。適切な積立金額を設定し、居住者へ積立金額の根拠を説明できるようにするためです。
場合によっては修繕費用が足りなくなり、積立金額を値上げしなければならない場合もあります。その際は、長期修繕計画に基づいて根拠を示すことで、理解が得やすくなります。
居住者の理解と信頼は、大規模修繕を行う上で必要不可欠なものです。日頃から長期修繕計画のチェックを行なっておきましょう。
大規模修繕工事を円滑に進めるため
3つ目の目的は、大規模修繕工事を円滑に進めるためです。
工事は半年〜数年単位で行われる場合もあります。着工前にも数ヶ月単位で準備を要します。大規模修繕直前になって
「何もわからない」
では、準備に時間を要しますし、居住者とトラブルになる可能性もあります。
あらかじめ長期修繕計画を作成しておき、管理組合内で共有しておくことで、施工会社との打ち合わせもスムーズになり、居住者への対応もしやすくなります。
大規模修繕は12年〜18年周期で行われますが、その間に管理組合の役員も入れ替わっていきます。長期修繕計画があれば、大規模修繕工事の見通しを引き継ぐのも楽になります。
長期修繕計画の内容は?
大規模修繕計画は「建築関連」「設備関連」「費用関連」の3つから成り立っています。詳しい内容について見ていきましょう。
建築に関する計画
1つ目は建築に関する計画です。建築に関するものとは
- 足場を組む仮設工事
- 外壁塗装工事
- 防水工事
- その他鉄部や建具の修繕工事
が挙げられます。
この項目を計画する際は、建物の構造や立地に合わせ、適切な修繕周期や工事方法を選ばなければなりません。
建物に合わせた素材や工法選び、修繕のタイミングは素人で判断するのが非常に難しいです。誤った選択をしてしまうと、修繕後に大きなトラブルになるケースもあります。必ず専門家の意見を聞くようにしましょう。
設備に関する計画
2つ目は設備に関する計画です。設備とは以下のような物です。
- 給排水設備
- ガス設備
- 空調設備
- 電灯設備
- 防災設備
- 駐車場・立体駐車場
これらは居住者の生活に直結するものです。日頃のメンテナンスと共に、長期修繕計画で改修の予定を組んでおくと、大きなトラブルを防ぐことができるでしょう。
立体駐車場は頑丈そうに見えますが、30年ほどで寿命を迎えます。車離れも進んでいますので、利用者が少なくなってきた場合は撤去を検討しても良いでしょう。
設備は居住者の生活に必要不可欠なものと、居住者を高めるものに分かれます。
必要不可欠なものは水、ガス、電気などのインフラ関連です。これらは日頃のメンテナンスはもちろん、必ず修繕計画に盛り込むようにしましょう。
居住性を高めるものとしては、スロープや防犯カメラの設置が挙げられます。居住者の様相や時代背景によってニーズが異なりますので、都度状況を見ながら計画に盛り込んでみてください。
費用に関する計画
3つ目は費用に関する計画です。修繕費用はいくらかかるのか、内訳はどのようになるのかなどです。
この項目には収入と支出に関しての計画が盛り込まれます。
収入の部分には修繕積立金額の累計、一戸あまりの徴収額、積立金の月額収入、借入金などが記載されます。
支出の部分には修繕や改修にかかる費用、借入金があれば返済額も記載されているはずです。
修繕積立金額は、大規模修繕費用の予算をもとに見直されます。つまり、誤った金額を設定してしまった場合、積立金額の値上げを居住者に求めなければなりません。
また、大規模修繕を行うまでにも小規模な修繕を行う場合があります。その際は修繕積立金から支出となるので、大規模修繕での費用が不足しないよう、常に費用の項目をチェックしておくことが望ましいでしょう。
一時金の徴収や積立金額の値上げは、居住者に理解を得るのが難しい他、総会の決議で可決される必要もあります。もし不足が生じる場合は、早めに専門家に相談し、居住者に理解を得てもらえるよう対応していきましょう。
長期修繕計画の留意点
長期修繕計画の重要性は今まで述べたとおりです。ですが、ただ作成すればいいという訳ではありません。長期修繕計画を作成する上での注意点をご紹介します。
5年に一度は見直す
国土交通省は5年に一度、長期修繕計画を見直すよう提唱しています。
計画はあくまで計画です。建物の環境や使用状況によって、大規模修繕の周期は変動しますし、物価の高騰などによって予算が大きく変わることもあるでしょう。
特に費用の問題は重大です。増税や物価の高騰は、ダイレクトに予算の増額につながります。足りなくなった予算は、居住者から徴収しなければなりません。そう言ったことを防ぐためにも、3年、長くても5年に一度は長期修繕計画を見直すようにしましょう。
積立金の不足は早急に手を打つ
積立金の不足は、大規模修繕を行う上で大きな壁になります。
長期修繕計画を見直した上で、資金不足が解消されない場合は、居住者に賛同を得て資金を徴収しなければなりません。一時金の徴収や積立金額の値上げは、総会を開いて決議をとり、可決されなければならないので、時間と労力を要します。
資金不足を理由に修繕を怠れば、深刻な劣化が起きる場合もありますし、マンション購入を検討している方にも大きなマイナスイメージにつながります。
積立金額の値上げは、居住者の生活にも大きな影響を及ぼします。資金が不足しないことが1番望ましい形ですが、どうしても不足してしまう場合は早めに専門家に相談して、手を打つようにしましょう。
見直しの流れ
長期修繕計画の見直しには流れがあります。
まずは既存の長期修繕計画のチェックを行い、現状について把握します。添付資料があれば一緒にチェックしておきましょう。
次に建物の状況を調査し、計画の変更点を洗い出します。洗い出した変更点を長期修繕計画に落とし込みます。
最後に居住者に説明会を開き、可決されれば見直しが完了です。
内容を見直す際は、やはり専門家の力が必要になります。くわえて、長期修繕計画の作成や建物の調査にはそれなりに時間を要しますので、余裕を持って取り組むようにしましょう。
まとめ
この記事では長期修繕計画について詳しく解説してきました。内容をまとめると以下のようになります。
- 長期修繕計画は大規模修繕を円滑に進めるために必要不可欠なもの
- 五年に一度の見直しを余裕を持って行う
- 専門家のアドバイスを受けながら行う
長期修繕計画は建物の機能や資産価値を維持し、居住者が将来にわたって安全・安心・快適に暮らしていくための計画です。また、長期修繕計画があれば、建物の現状や資金繰りを可視化し、管理組合や居住者で共有することもできます。
ただし、作成には専門的な知識と時間が必要になりますので、必ず専門家に依頼し、意見をもらいながら計画を立てるようにしましょう。